歯医者さんに通い始めて気持ちが前向きになっている時に気になってくるのが電動歯ブラシのコマーシャルではないでしょうか。
今まで当たり前のようにテレビで流れていたコマーシャルなのに急に眼に入るようになるものです。
「これを使ったら簡単に、より綺麗に磨き残しが無くなって虫歯や歯周病が手早く、簡単に、短時間に予防できるようになるのでは?」
誰しもが「淡い期待」を寄せるものです。
もちろん私もそう思います。
「そうだったら良いのに・・・」
今回は皆さんがきっと気になっている電動歯ブラシについてご説明します。
電動歯ブラシは使ったほうがいいのか
さっそく結論です。
使わない方が良いです。
がっかりしましたか?そうですよね。期待していたと思います。
それではなぜお勧めしないのか説明していきます。
歯医者の先生の中には電動歯ブラシや洗口剤などすごく勧めてくる医院もあると思いますが、この記事の内容についてはあくまでも石崎歯科医院の一意見として読んでください。
「なるほどな!」 と思って頂けた方は参考にして頂きたいと思います。
電動歯ブラシをお勧めしない理由
電動ブラシを使っている患者さんはたまにいらっしゃいます。
中にはとても上手に磨いていて、これなら使っても大丈夫と思える患者さんも確かにいらっしゃいます。
でも100人に一人くらいです。
もちろん私は使っていません。
ではなぜ駄目なのか? その理由は・・・
- 磨き過ぎてしまう
- 使ってる患者さんのお口を見ると、ほとんどの方の歯ぐきが下がってしまっています。
- 歯の表面のエナメル質が削れて薄くなってしまっている患者さんも多いです。
前のブログにも書きましたが、歯磨きの「本当の目的」を思い出して下さい。
歯を磨いて、ピカピカ・ツルツルにして虫歯や歯周病にならないためではないのです。
自分の歯で一生食べられて、価値のある人生を過ごすためなのです。
何が違うかって?
もし最悪、歯を磨き過ぎて歯ぐきがすごく下がってしまったら将来どうなると思いますか?
- 歯間はスカスカ。
- スカスカの所に食べ物が良く溜まります。
- 溜まれば虫歯や歯周病になりやすくなります。
- いろいろなサイズの歯間ブラシを何種類も駆使してその汚れを取らなくてはいけなくなります。
- 歯根は虫歯にすごくなりやすい為、磨けない時期が半年も続けばボロボロになってしまいます。(寝たきりになってしまった患者さんはこうなる方がほとんどです。)
- もちろん見た目も切ないです。(一生懸命に磨いたのに・・・)
- エナメル質が薄くなると見た目も悪くなります。(すごく年老いた歯に見えます。)
- 硬いものを噛んでしまうと、薄くなったエナメル質が剥がれるかもしれません。(ここまでひどくなった患者さんは見たことはありませんが。)
- 磨けないところが結構多い
- 歯間に残った磨き残しが多い (染め出ししてみると結構残っています)
面倒な歯磨きも、歯間清掃も電動歯ブラシを使っていれば「簡単に効率よく、コマーシャルみたいにきれいに磨けるのでは?」と思いたくなるのが心情。
でも残念ですがそれは無理。
特に、歯間清掃は別物です。
それでも何とか磨こうと電動歯ブラシの毛先を無理やり歯間に突っ込んで磨く方がいらっしゃいましたが、確かにそれなりに磨けているのですが・・・
どうなってしまったと思いますか?
歯間がスカスカになっていました。
ほとんどの方はこうなってしまう結末をご存じありません。
楽をしたいと言う気持ちで使い始めた方も、より綺麗に磨きたいと とても前向きに取り組んでくれた患者さんも上手く使えないと残念な結果になってしまいます。
電動歯ブラシで磨いた後は歯の表面がツルツルに感じます。
すごく磨けた感じがして「すごくよく磨ける!」と感じます。
でも勘違いしないでください。確かにツルツルなのですが、歯磨きで大切なのはツルツルではなくて歯の表面に居る細菌を取り除くためです。
ツルツルな状態に毎日していると磨き過ぎてしまうのです。
元々歯の表面は顕微鏡で見ると比較的凹凸があります。それがツルツルになってしまうのは却って問題なのです。
歯磨きの本当の目的を忘れないで欲しいのです。
歯を磨くことが目的になってしまうと、年老いた時に歯ぐきの隙間がスカスカだったり、上記のような状態になってしまいます。
いくらピカピカ・ツルツルでもそれで良いのでしょうか?
そして、電動歯ブラシでほとんどの方が知らない事があります。
電動歯ブラシには電動専用の歯磨き粉を使わなくてはいけない事です。
知っていましたか?専用の歯磨き粉(歯磨剤)が存在するのです。違いは研磨剤の有無です。
専用の歯磨剤を使わない方がほとんどなので、マイナスポイントを助長しています。
専用の歯磨剤でないとダメな理由って?
歯磨剤にはいろいろな成分が入っていますが、その中でも研磨材が問題なのです。
研磨材は、歯に付いた着色(ステイン)を落としたり、歯の表面についてこびり付いた歯垢を効率よく落としたりする目的で入っています。
入っている研磨材にも種類があり、市販の歯磨剤には短時間でも落ちるようにするために強力な研磨材(簡単に言うと硬くて粗い研磨材)が入っています。
歯磨きのメーカーも販売数を伸ばすためにしのぎを削っています。他の歯磨剤よりも汚れが良く落ちてツルツルになりやすいものを作っているはずです。
安ければ尚更、消費者は喜ぶでしょう。そうでないと、消費者から選んでもらえません。
安価な歯磨剤に対して、高級な歯磨剤もあります。1本2,000円くらいします。
何が違うかというと、いろいろな成分が入っているのですが研磨材一つとっても「汚れ落ちが良くて歯に優しい(傷つきにくい)研磨材」がはいっています。
例えば昔流行った歯磨剤に「ザクトライオン」というのがあります。頑固なタバコのヤニを取るための歯磨剤として売られています。(今でも売っています)超強力な研磨剤が入っています。かなりザラザラしている歯磨剤です。
かなり前ですが、愛用している患者さんがいらっしゃいましたが、歯は削れてしまっていて悲しい状態でした。
電動歯ブラシは手で磨くよりも、歯をこする回数が圧倒的に多いのです。そのため、研磨剤入りの歯磨剤では歯の表面が削れてしまうのです。
歯の着色について
着色は確かに気になります。
でも、そればかりを気にしていて歯磨剤を沢山つけて、歯ブラシでゴシゴシこすると着色はそこそこ取れますが歯にとって決していい結果にはつながりません。
ではなぜ歯に着色するのでしょうか。
- 色素沈着しやすい飲み物を良く飲む。 紅茶・コーヒー・ウーロン茶・緑茶 など
- 歯が削れにくいように研磨剤の少ない(無い)歯磨剤を使っている。
- 口呼吸
などが挙げられます。
この中でも、特に注意して頂きたいのが「口呼吸」です。
お茶やコーヒーを愛飲していても、着色がひどい人とそうでない人がいます。
その違いの原因がほとんどの場合口呼吸なのです。
人は本来、お鼻で息をしなくてはいけないのです。ほとんどの方がご存じないと思います。
お口は消化器官の入り口で、食事やお話しするとき以外は閉じていなくてはいけないのです。
コロナがあったおかげで、人は皆マスクをしていました。マスクをしているとお鼻での呼吸が苦しいのでお口呼吸になりがちになってしまったということもあります。
お口で息をしていると、お口の中は乾燥してしまします。歯の表面も乾燥します。そうなると着色しやすくなります。
お口呼吸をしている方の特徴は、特に前歯の先の方だけに着色します。

ご自分の歯はいかがですか?
口呼吸については詳しくは別の機会にお話しします。
着色を取るには・・・是非歯科医院にお任せください。私たちは、着色だけを「狙って磨けます」。
余計な所には力をかけないで、歯に傷をつけにくい研磨剤を使用して磨けます。
ただし、ちょと問題があります。
保険診療では着色だけを綺麗に取ることは出来ないのです。
歯石を取ったあと、歯の表面にあるザラザラを取る為なら研磨できますが、着色は「疾病ではない」ので、保険診療の対象ではありません。そのため、当院ではもちろん出来る限り着色も「ついでに」お取りしていますが、着色だけを取ることは保険診療でやってはいけないのです。
着色を綺麗にするためには「エアーフロー」という器具が必要です。
エアーフローは、ちょうど高圧洗浄機のようなものです。歯科の装置は、お水だけではなくて粉を一緒に混ぜたものを吹き付けて着色やザラザラを取ります。
吹き付ける粉にも種類があります。
主にヤニなどの強固に固着しているものを対象とした、少し粒子の荒いもの。
これで歯の表面をきれいにすると、実は歯の表面に微細な傷がつくので、その後のトリートメントとして、研磨仕上げが欠かせません。
もう一つは、微細なパウダーです。(1粒の大きさが15㎛ らしいです)粒の組成も着色専用のものとは違い、歯にとって優しいものです。炎症も取る効果もあるそうです。
ほとんどの軽い着色はこれで取れます。
この粉にはもう一つの大切な役割があります。
それは歯のポケットにある、歯の根っこの表面も綺麗にする役割です。ポケットにいる細菌が、歯周病の原因って知っていますか。
エアーフローの使いたい一番の目的は着色よりも、ポケットにいる細菌を出来るだけ根こそぎ取ることです。
実はポケットの中は磨くことが出来ません。
歯ぐきに覆われているからなのです。歯周病の原因(細菌)をしっかり取るためにはポケットの中の細菌も出来るだけ綺麗に取る必要があるのです。
ここまでの治療をすると歯周病が改善しやすくなります。
しかし、これは保険診療では出来ません。エアーフローを使う時はこのパウダーの選択が重要です。
歯周治療の仕上げにはエアーフローをお勧めしています。
まとめ
記事をお読みになって、残念に思っている方も多いかと思います。
電動歯ブラシはほとんどの方にはお勧めしません。
しかし、手が不自由だったり介護をしている方にはお勧めしています。
もしお使いになるときは是非お声がけください。使い方を指導させて頂きます。
歯磨きには王道はありません。地道なテクニックの向上が必要です。
当医院では大切な歯磨きの指導を何回でも受けて頂けます。
何回虫歯の治療をしても、どんなに歯周病の治療をしても歯磨きが上手にならない限り、虫歯や歯周病は再発します。
丁寧なブラッシングを心がけて、口腔内の健康を守りましょう!