歯科コラム

タイへの歯科研修旅行 その2


2日目

昨日は顔合わせだけでしたので今朝からが本番です。朝食を済ませた上で荷造りをして朝7時半に集合です。これから先生の経営する歯科医院を見学のためにシラチャーという所まで移動です。

観光用に改造されたハイエースに乗り込み1時間ちょっとの移動です。このハイエースですが、タイの方たちのお給料を考えればとても高価なものだと思います。オーナーさんの趣味で改造されているのですが、見た目を良く(?)するために車高を下げています。  タイの道路は工事の繰り返しの為に路面が凸凹しています。移動は距離が結構あるので90~100Km/hぐらいで走っているのですが、車高を下げてあるので乗り心地がとにかく悪いです。  移動しているだけでも疲れてしまいます。(車内はご覧の通りです。すごいデコレーションです。)

1時間半ほど走り、シラチャーに到着しました。狭い範囲ですが沢山の店舗があります。先生の医院は街の中にある小さなショッピングモールの2階にありました。雰囲気は日本のショッピングモールとはずいぶん違います。にぎやかな感じではなく、地方の過疎化が進んでしまったような、ちょっと暗いイメージですがそれがタイでの普通の雰囲気なのです。

これから白衣に着替えて先生の治療の見学です。

前回も少し書きましたが、ここの歯医者さんは基本的には日本人の患者さんが9割くらいだそうです。タイの地で治療を受けるとなると問題になるのはやはり言葉の壁です。そのためにここの歯科医院では日本語を話せるコーディネーターが二名常駐しています。患者さんは安心して治療が受けられるようになっています

日本人は日本のライセンスを持っていてもタイでの治療は絶対にはしてはいけないので治療は必ずタイのドクターになります。もし、日本人のドクターがタイで治療をする場合はタイ語をマスターしてタイの歯科大学へ入学して現地の歯科医師免許を取る必要があるそうです。

日本の先生は、患者さんとお話して(カウンセリングして)患者さんの要望をかなえるためにドクターに指示をします。その指示もほぼコーディネーターさんを通して行うので、治療の手技や内容はいちいち指示できませんのでタイのドクターに裁量は任せられています。

代診の先生はまた29歳でしたがその雰囲気は安定感のある信頼できそうな先生でした。ちなみに、タイの歯科では衛生士さんはいないそうです。歯石の除去や歯ブラシ指導もすべてドクターが行います。もちろんすべての治療が自費診療になります。日本が恵まれている医療環境であることが分かります。

先生の診療所の治療の内容としては、お子さんの矯正治療が多く、装置的には子供の顎の成長を促すための床矯正がメインです。

見学させて頂いた患者さんの中には、韓国のおじさんもいました。その方はマウスピース矯正のスタートでした。タイの先生とは英語で会話していました。

治療は患者さんのプライバシーの問題もあり、間近で見学することは出来ませんでしたが雰囲気はよくわかりました。

ここの歯科医院の敷地は広く、ゆったりとしたつくりになっています。それなのにテナント代は日本の1/10くらいでしょうか。とても羨ましいです。

しかし、日本との大きな違いがありました。それは内装の質の低さです。これは先生もしょうがないと言っていました。これがタイでの普通だそうで、細かいことを言うとお金だけ取って、仕事に来なくなることもあるそうです。

今日は2時間くらい数名の患者さんの診療風景を拝見しました。

こう比べてみると、海外で日本人が診療所を持つという事の大変さを知りました。

ではなぜ、このような苦労をしてこの先生が開業したかは最後のまとめに書きたいと思います。

次に向かったのは、比較的近くにある総合病院です。

タイで暮らす、日本人も安心して治療を受けられるように対応してくれています。

サミティベート病院

https://samitivej-jp.com/sriracha

HPも日本語で書いてあり、何かあったときには心強い病院です。

玄関を入るとコーヒーのいい香りがします。日本でも最近は大きな病院の1階にはスタバなどが入っていることも多くなっていますが、この病院もそうでした。喫茶コーナーや食事もできるようになっています。

この病院は海のすぐ脇にあり、とても景色が良いです。リゾートマンションのようです。

ただしかし、どこの病院もそうでしたが歯科用の診療台は古臭いユニットが殆どでした。もちろん高価なのでなかなか交換できないのでしょうが、このような総合病院でもそうでした。

いろいろな科の診療ブースを見ると、先生は自分のブースを持っています。とても優遇されています。部屋の装飾はその先生の個性を表しています。このような病院で働くのも良いですね。

しかし、多くのドクターは仕事の掛け持ちをしているようで、自分の診療所とこの病院とか他の医院との掛け持ちが多いようです。診療室の殆どが診療していませんでした。

見学後はすぐ近くのレストランで急いで昼食をとり、移動です。

次は、日本人が住むコンドミニアムに出かけ、そこの集会所のようなところで簡易的な診察を行いました。訪問診療みたいな感じです。

ここのコンドミニアムは日本人向けで、だれでも部屋を借りて住むことが出来るそうです。モデルルームも見せてもらいましたが、内装は日本と同じ雰囲気で景色も良いですが家賃は高いです。日本に比べればもちろん安いですが、現地の方向けの家賃の数倍はします。日本人向けの商売は足元を見られています。

その日の見学日程は終わり、先生の診療所に帰って来ました。

これから先生のセミナーです。

2時間ほど講義があり、終わったのは19時を過ぎています。

その後は近くにある、先生の行きつけだった日本食の料理屋さんに向かいます。「行きつけだった」と書いたのは、経営者の先生も最近のコロナの為に現地に訪れるのは実は4年ぶりだそうです。オンラインでは現地スタッフの顔を見てコミュニケーションを取っているものの、実際に会うのは4年ぶりだそうです。そしてこのお店は地元向けのお店で、居酒屋さんです。

メニューを撮ってくるのを忘れましたが、ありとあらゆる日本食のメニューがあります。どれも美味しかったです。

食事が終わりホテルの部屋に戻ってきたのが21時半くらいでした。今回週博したホテルは先生の病院が入っている近くの小さなショッピングモールのすぐ裏でした。その中に日本でもよく見かけるMAX Valu があったので買い物に行ってちょっとだけ買い物をしてから、シャワーに入り次の日の準備をしてから就寝です。

3日目

次の朝は10時集合ですが、集合前の7時半から先生の診療所で自由参加の朝のセミナーがあるのでそれに参加です。

朝早く6時に起きて朝食を食べにホテルのラウンジに行きます。私は朝食は基本的にほとんど食べないので栄養を考え、必要最小限の物だけ食べます。ラウンジでは院長先生と同席させて頂き、そこでもいろいろなお話をお聞きします。 本当にたくさんのお話をお聞きすることが出来て素晴らしい環境だと思いました。

今日は出発するともうここのホテルには戻ってこないので、すべての荷物をまとめ朝のセミナーに参加です。

2時間ほどの講義のあと、10時に診療所前に全員集合したら移動です。

3日目のメインイベントは、先生の診療所に代診として来ている先生が今年、2023年の6月に自分のデンタルオフィスを立ち上げたので、その代診の先生の診療所の見学です。

代診の先生の診療所は車で30分くらいの所にあります。

大きな通りに面している所ですが日本の診療所の雰囲気とはずいぶん違っています。

タイの多くのテナントは入り口(間口)が狭いのです。昔タイでは間口の広さで税金が決まっていた様で、そのために間口が狭く、奥行きがある間取りになっているらしいです。

代診の先生の所もそうでした。細長く日本では考えられないような診療台の配置です。院内のレイアウトはとても参考になりました。

何よりもびっくりしたのがスタッフの白衣?です。日本ならコスプレと言われ、非難されそうなレベルです。 でもタイの人たちはこのような制服も「インスタ映え」に必要なそうです。

今回のツアーではこの先生の診療所(デンタルオフィス)のほかにも、個人の所を2か所見学させて頂いたのですが、どこの診療所にも撮影機材がしっかりあってスタジオを持っているのです。広くはないですが、術前術後の写真や矯正治療の+のために機材がそろえてあります。

そのスタジオで先生の開業コンセプトのプレゼンがありました。

日本の先生もスタジオをそろえている先生は勿論いらっしゃいますが、普及率はまだまだです。診療所が広ければこれからの時代には必要ですね。私も作ってみたくなりました。

3日目のスケジュールには変更がありました。予定ならば午後はタイの孤児院の見学&ボランティアの予定でしたが、相手側の都合により中止になってしまったため午後はタイ観光に変更になりました。

昨日は本当にハードスケジュールでしたので一息つけました。

この日は夜にいろいろな先生たちと知識の共有をしながら食事をして一日が終わりました。このような時間もとても貴重な体験でした。

4日目

もうタイでの研修も最終日になりました。帰国するのも今夜の便です。

4日目のメニューもハードスケジュールです。

朝1番に訪れたのがチュラロンコン大学というところです。こちらで歯学部の見学をさせて頂きました。

チュラロンコン大学は伝統のある病院です。今回は5年生の口腔外科の実習時間を見学しました。学生たちが指導医の下に患者さんの親知らずを実際に抜いています。

患者さんはもちろん施術しているのが学生さんだと知っています。前にも書きましたがタイは一般の方の収入が少ない国です。親知らずの抜歯となるとかなりの費用になる為に、学生さんの臨床実習の患者さんとなることで費用を安く受けることが出来るそうです。

日本の場合は、卒業後にしか親知らずの抜歯は行わないと思います。この時点で卒業直後であってもその技術差は大きいものだと感じました。教育がしっかりとドクターの価値を上げてくれています。

次は昼食後にバンコク市内の開業医の先生の診療所にお邪魔させて頂きました。

こちらも雑居ビルのような中に入っている診療所です。

こちらの先生も日本人を対象にして診療していました。

次に訪れたのは歯科技工所です。

最新の設備を取り入れた技工所さんです。

こちらで技工士として働いている方たちは日本のように資格がありません。日本の歯科技工所で働く場合は国家資格である歯科技工士の免許が必要です。タイの場合は資格は必要なく、働きたい方が働いているとのことでした。

こちらの技工所は比較的規模の大きい所です。こちらでは技工士さんを育成して、少しでも高い給与が稼げるようになってもらい自分の故郷でも収入の良い仕事に着けるような「人材育成」にも力を入れているそうです。

この方たちの仕事ぶりを見ていると、資格がないからとか外国だからと言って仕上がりが悪いわけでもなく、一生懸命に作製していました。

いま日本は技工士さん不足が深刻な問題になっています。デジタル化が進んでいて、昔よりは人財は少なくても良くはなってきていますが、技工士さんがいなくても大丈夫なわけではありません。日本も少し技工士さんを育成して高給を取れるような考え方が必要だと実感しました。

次に向かったところが今回の最後の見学になります。

やはり、バンコク市内のにぎやかな場所で開業している先生です。

こちらの歯科医院も、狭い入口で立体的な間取りになっています。基本的に狭いテナントなので1階あたりにユニット1台しか並べられません。そのために却って広い間取りになっています。ここは3階建てですがエレベーターなどはないので上下移動は階段です。きっと患者さんも大変でしょう。

全ての研修は終了しました。

最後に終了証の授与がありました。頂いた終了証は診察室に飾ってあります。

これからスワンナプーム空港へ荷物をもって移動です。今夜の深夜便で帰国です。

明日は午前中に成田に到着して、午後からは診療が待っています。

まとめ

振り返ってみるとあっという間の4日間でした。私は約半年前にタイに観光で来ていました。

その時とは全く違う、別のタイを見てきました。

ネットやセミナーでは日本と海外の違いを見聞きすることは最近では多くなっていましたが、実際に現地に行って視察することはやはり実感として伝わってくる情報量が全く違います。また、1日中 同行されている先生たちとお話をすることが出来る環境も、とても貴重な時間でした。

ではそもそも何故、これほどの苦労をしてその先生は海外進出し、海外での診療所の経営をしたのでしょうか。

そこにはこれからの日本を考えた時のリスク分散だそうです。

これから高齢化に拍車がかかる日本ですが、その中で問題になるのが働き手の大減少と医療費の爆発的な増大です。ちなみに日本の近隣を見たときこれほど若者の働き手が少なくなっている国は少ないそうです。AI化や自動化が進んでも最後に必要なのは人の手です。

そしてその危機をさらに高リスクにするのが地震などの災害です。

この記事をまとめているのは令和6年ですが、1月1日に大規模な震災がありました。

もしこれが首都圏直下型とかでしたらさらに深刻な状況に日本はなっていたのでしょう。

そうすれば日本でも過去にあったハイパーインフレが起きるかもしれません。

現実的に海外に進出し、海外で診療所を経営し安定化させる事は今回の先生のお話を聞いても至難の業です。 しかし、海外資産の保有や海外での何かしら出の事業を考えておくことによりこれからのリスクを大幅に軽減することは出来ます。

経営の事や、これからの日本の将来、そしてリスクヘッジなど今まで私の意識の薄かったことに対し大きな波紋を投げることになった今回のタイでのセミナーでした。


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