私のブログも10回目になりました。
この節目で、私が歯科医師として大切に考えている事についてお伝えしたいと思います。
皆さんは歯医者って、どんな場所だと思って通っていらっしゃるのでしょうか?
一般的には、「詰め物が取れたから治してもらう」「歯が痛いから治してもらう」「歯石がついて気になるから綺麗にしてもらう」といった具合でしょうか。
要するに、「取りあえず治してもらいたい」というところではないでしょうか。
私は歯科医師として30年以上の経験がありますが、治療に関する基本的な原則は何も変わっていません。
感染しているものを清掃し、力のコントロールを行う。
これが大原則です。私の考え方は30年間変わっていません。
最近はようやく、力のコントロールも重要だと認識されるようになりましたが、まだまだ患者さんには理解されていないようです。
しかし、ここ10年ほどで治療の取り組み方がかなり変わってきたと感じています。
虫歯や歯周病だけを診るだけでは本当の改善(再発防止)は難しいことがわかってきたのです。
治療機器の進化もここ10年で大きな進歩を遂げました。
私は開業当初からマイクロスコープを使用しています。最近では他の歯科医院でも導入されるようになりましたが、私は20年以上も前から必需品として使用しています。
また、Ni-Tiファイルなども初期から取り組んできました。さらに、レントゲン撮影の被ばく量を減らし、廃液を減らすためにレントゲンのデジタル化にも早くから取り組んでいます。
しかし、「歯を治療」してもそれだけでは本当に治る患者さんが少ないことに気づいていました。
再発を繰り返すのです。
昭和の世代の方だと、虫歯が酷くなったら「抜いて入れ歯を入れる」というのは「しょうがない」という認識だったと思います。
しかし、私のところでは「自分の歯はかけがえのないもの」というスタンスで、可能な限り抜かないで再治療して残すように努めてきました。
そのおかげで「歯を残す大切さ」が患者さんに伝わり、歯を残すために歯ブラシなどの予防に目覚めて「考え方が変わった患者さん」が増えてきました。
よく患者さんに言われます。「先生にもっと早く出会っていれば、私の歯はこんなに無くならなかったのに…」
少し話は変わりますが、私のところではインプラント治療をまだ取り入れていない理由もそのあたりにあります。
インプラント治療の成功のカギは「骨の健全さ」と「メインテナンス」だと思います。
インプラントを埋入しようとする場所の虫歯が進行していたり、歯周病が進んでいると成功率が下がります。そのため、インプラントを計画した場合は将来的に残りそうにない歯は積極的に抜くことになります。
もちろん、骨の回復技術もありますが、非常に大変な治療になります。
そのため、私のスタンスである「歯をギリギリまで残す」こととは相容れない立場になるのです。
しかし、将来的には技術がさらに進歩し、私も納得できるようなインプラント治療が可能になると思います。
そうなれば、私の治療メニューに追加されるでしょう。
歯医者って虫歯や歯周病の治療だけではないの?
これまでもブログで触れてきましたが、虫歯や歯周病を治すだけではなく、「原因を改善」することが健全なお口の状態を保つためには必要です。
具体的には、生活習慣の見直しです。
これからの歯医者は生活習慣病の指導も重要だと考えています。(
生活習慣病について知らない方は、検索したり前の記事をぜひ読んでみてください。)
歯はただあればいいわけではありません。よく噛めることで、歳をとっても何でも食べられ、栄養をしっかり摂取できます。口の中が綺麗な状態だと、虫歯菌や歯周病菌が体内に入り込むことがなく、誤嚥性肺炎のリスクも減ります。そして見た目も綺麗で、自信をもって笑顔を見せることができるのです。
本当の原因をなくすためには、生活習慣の改善が必要です。
例えば、寝る前に歯を磨かないことが虫歯の原因となる方には、寝る前に時間をかけてフロスをしてから歯を磨くようにお伝えしています。また、間食ばかりしていることが虫歯の原因の方には、間食を控えるようにアドバイスしています。
これらの取り組みが大切ですが、「それって難しいよね」と思われる方も多いでしょう。
私たちは患者さんに自分の行動を振り返ってもらい、改善するお手伝いをすることを大切にしています。それができなければ、本当の健康な歯は手に入りません。
まずは患者さんに「普通」を実感してもらうことが重要
例えば、歯にピッタリ合っていない詰め物が入っている患者さんがいらっしゃいます。このような方には、本格的な虫歯の治療を行う前に(痛いところや急いで治療したほうがいいところがあればもちろん治療しますが)、合っていない詰め物を磨いて凸凹を修正したり、穴の開いているところに簡単な詰め物をしたりして「磨きやすく」してあげます。
それから衛生士さんにお口をクリーニングしてもらい、歯ブラシの指導を徹底的に行います。
すると、1~2か月もすると、ほとんどの方が見違えるようにお口が綺麗になります。患者さんは初めて「普通のお口の状態」を理解します。なぜ、他の歯医者さんでこのような状態を教えてもらえなかったのでしょうか。
患者さんは「この基本状態を初めて理解して」ここを目指して歯を磨くようになります。 「自分でもこんなに綺麗に磨けるんだ!」、「歯を磨くってこういうことなんだ!」と初めて理解できるのです。
普通は、1~2回の歯ブラシの指導で上手に磨けるようになることはありません。綺麗な状態を維持しながら何回も歯ブラシの指導を受けて、何とか磨けるようになるのです。
多くの患者さんは、私たちの指導で90点以上の磨き方をマスターするのに1~3年かかります。この程度の磨き方を身につけない限り、「予防できない」と考えています。
いつまでも上手に磨けない患者さんには定期的に来てもらい、磨き残しを取るお手伝いをさせていただいています。
こうした取り組みにより、患者さんたちの「生活習慣」が変わり始めるのです。
「あなたはどうなりたいのですか?」
患者さんに質問します。
「80~90歳になったときに、あなたのお口はどうなっていたいですか?」という問いに答えられる患者さんはほとんどいません。考えたこともないと思います。
だからこそ、私たちはゴールを知ってもらうことが重要だと考えています。
できるだけ歯を失わずに、自分の歯で何でも食べられるためには何が必要なのかを知ってもらうこと。そして、生活習慣を変えてもらう必要があるのです。
虫歯や歯周病だけを治すだけでは、虫歯や歯周病がエンドレスに続くことになります。歯を次々に抜かなければいけない患者さんもいます。
本気で自分から「治りたい」と思っていない患者さんもいます。その場合、本当に治るということが理解されていないこともあります。
「歯医者に通っていれば何とかしてくれるでしょ!」という気軽な考えがあるようです。
自分の生活習慣と考え方を変えなければ、歯は残らないのです。だからこそ、私たちは「虫歯を治して歯周病を治療するだけ」では足りないと考えているのです。
患者さんの生活習慣を一緒に振り返り、見直してもらうことも私たちの大切な任務です。
ゴールを知って、逆算して行動することが大切なのです。
例えば、出かけるときに目的地を決めていなければ、そこまでの手段や時間がわかりません。
私たちは患者さんに「できるだけ1本も歯を失わずに、自分の歯で何でも食べられる」というゴールを知ってもらい、それに向かって行動することをサポートしています。